女王の住む国



次々と杯を重ねていく井上聞多に、たまらず声を掛けた。
「僕ら、死ぬかのう」
「死ぬかもしれんな」
「あの人も誘えばよかったか」
「いや、いいんじゃ」
聞多はへらへらと笑いながら、酒を飲み干す。聞多の後ろで輝く大きな月は、遠い異国の地でも同じ形なのだろうか。
「高杉まで持ってったらな、ますます長州はどうなるかわからんぞ。置いてってやるんじゃ」
「へぇ」
俊輔は、聞多の都合のいい解釈に頷き、隣に腰を下ろす。二人の、切ったばかりの髪の毛が夜風に揺れた。
「死んだら、どうなるんかのう」
俊輔が言うと、聞多は少し、笑って
「どうもならん。死んだら終わりじゃ。けど、死ぬ気はせんのう」
「本当か」
「ああ」
「信じるぞ」
「それは困る」
俊輔もつられて笑ってしまう。まったく、誘いをかけたのは聞多だというのに、この無責任ぶりはどうだろう。
「向こうで死んだら、日本に知らせはくるんかのう。ちょっとは名を上げることができるじゃろうか」
「高杉がおろう。あいつが、異国で死んだ俺らを奉ってくれる」
「高杉が?」
「まぁ、あいつは多分、誰よりも先に俺らのことなど忘れるじゃろうな」
うん、そうだろう。
俊輔は頷いて、目の前に座る親友と、大声を出して笑いあった。
何故だか心が軽くなり、先ほどまで震えていた二人の手は、既に静かに投げ出されている。
畳の上に寝転び、最後になるかもしれない故郷の月を見上げた。
明日僕らはエゲレスに行く。




end




お神酒徳利コンビ、聞多と俊輔。イギリス行き前夜です。