キスキス・ランラン



一つの里の長としての最年少記録は風影の我愛羅に持っていかれたけれど、
歴代火影としては最年少記録を更新した黄色い頭のお騒がせ野郎が
最近挙動不審だ。その為、里の長を隣でサポートする立場である
黒髪の補佐は少し困惑していた。

新火影が就任してまだ1ヶ月ちょっとしか経っていない。
どうしても慣れないデスクワークにうんざりしているのは分かるけど、
こんなにはっきりと心ここにおらずの顔で窓の外をじっと見つめては
ため息ばかり吐く姿をワザとらしく見せつけられると、
人としてイラッとくるのが普通の反応であろう。
人の気苦労など夢にも知らずに流れる雲を見上げながら任務に出たいと
呑気に抜かしている金髪を一発思いっきり殴りたいと思うのは
黒髪の彼だけではない筈だ。
先からずっと書類の決裁を待っていたサクラ色の髪の女性の手が
ぶるぶると震え始めたのを横目でちらっとみてから机に溜まりっぱなしの
未決の書類の山を見上げると頭痛が襲って来た。
今あいつはのんびりしている場合ではないのだ。
何せ未だに10代少年の火影なんて伝統と格式がある我が木の葉には似合わない、
砂の里みたいなド田舎でもあるまいしあんな餓鬼の火影なんか有り得ない、
若すぎるから落ち着きがなくて頼りないので信じて付いていけないと裏で陰口を叩く輩がいる。
それだけではない。
九尾の事や里抜けの罪人を庇った事で6代目火影、うずまきナルトを
よく思ってない不満勢力は未だに根強く残っているのだ。
黒髪の補佐こと、うちはサスケは思わずため息を吐いた。

ナルトの火影就任は覚悟していたよりも反発が多かった。
若い世代は別にいい。彼らにはむしろ受けが良かった。
しかし、九尾の事件を未だに引きずっている古い世代や
原理原則を重んじる頭硬い長老クラスの人達は表向きには
彼の事を認めるフリをしてことごとく色々邪魔して来る。
半分嫌がらせに近いナルトへのバッシングには自分の存在のせいもあると言う事に
サスケはやるせない気持ちでいっぱいになっていた。
だから責任を持って彼を一生懸命に補佐して行くと決めた。
それを金髪の鳥頭にも理解できるようにちゃんと説明をしたつもりだ。
少なくとも仕事は完璧にこなしてみせろ、実力と結果であんなやつらを黙らせろと
毎日のように散々言い聞かせている。
なのにどうして今日もこんな退屈な仕事なんかしたくないってばよな顔をして
ため息ばかり吐いているんだろうか。
サスケはムカムカと湧いて来るそのイラタチに負けそうになった。

「あ〜あ、体動かしてーな〜座りっぱなしでケツが痛えってばよ。」

もう限界だ。頭の中で何かが切れる音がしたと思った瞬間だった。

「しゃーんなろー!」

どうやら堪忍袋の緒が切れたのはサクラの方がコンマ何秒の差で早かったようだ。
5代目さながらの怪力を誇るサクラのパンチが空を唸った。

「…って、痛てー、痛いってばよ!今の本気だったよな?もしかしてオレを殺す気?!」

「まさか。少なくとも机の上の仕事が片付くまでは殺さないわよ。」

爽やかな笑顔で、しれっと言い放すサクラをみてナルトが一瞬固まった。
それもそう、今のサクラの言葉を言い換えれば、
『仕事さえ終われば遠慮なく殺してあげるわよ』と言う事だ。
こんな時のサクラの笑顔は本気だと言っているのと同じなのである。

「…申し訳ごさいませんでした。ちゃんとお仕事頑張ります!」

これで一件落札だ。
本当にサクラは頼りになる。
彼女にはいくら感謝しても足りないくらいだと思いながら、
サスケはたった今決裁が終わった書類を受け取る為にナルトの机の前に寄り付いた。
それが失敗だった。
机の上の決裁完了の書類を取ろうと右手を差し延べたサスケはその手を
電光石化のような速さでナルトに掴み取られ、机の向かい側の彼の方へと
ぐいっと引き寄せられたのだ。
その勢いにバランスを一瞬崩してしまい、サスケはナルトの胸の中へ
飛び込むような形になってしまった。すぐさまナルトの胸の中に預けられた上半身を
彼から離そうともがいてみるが、いつの間に背中に回された力強いナルトの腕が
それを許さなかった。

「…ざけんな、今すぐ離せ。」

凄味が混じった低い声で唸るようにサスケはナルトの耳元へ言い放った。
が、またそれが逆効果をもたらした。

「…や〜だね。オレ今バッテリー切れだってば。
んなわけだから、サスケを充電させてよ。」

「充電って何だ!いい加減…っ!!」

ナルトの訳分かんない戯言に付き合ってられない。
一刻でも早く離れようとナルトに捕まれてない方の腕を使って
彼を押し返してみるが、むしろもっと強く抱き締められた。

「…サスケ、約束したじゃねーかよ。朝のはもう効果切れだって。
だからもう一回キスして?」

ナルトが火影になったらキスしてやると約束をしたのは確かだ。
その場の勢いというやつで、サスケは後になってその軽率な発言を死ぬ程後悔した。
まさか、あれから半年も経ってない内に彼が火影になるとは実際思ってもいなかった。
まだまだ時間が掛かるだろうと、時間が経つにつれあんな下らない出任せの約束など
あのウスラトンカチが自然に忘れてくれるだろうと思った自分の甘さを責めるしかない。
勿論、ナルトは忘れてなんかいなかった。
綱手様から『6代目火影はお前だ、ナルト。』と言われた瞬間、
一番最初にナルトの口が発した言葉は『やった!サスケ、今すぐキスして!』であったのだ。
あの時の恥ずかしさと気まずさと言ったら今でも顔から火が出そうだ。
穴が有れば入りたいという気持ちがどんなものなのかをあの時よくわかった。
それでも約束は約束だ。その場で、5代目火影綱手様と親しい仲間達の前で
半分自棄になってサスケはナルトにキスをした。
あれから1ヶ月、律義にもその約束をちゃんと守っていると思う。
今になっては毎朝毎晩、1日2回もナルトにキスしてあげている位だ。
初めは唇に触れるだけのキスでも嬉しそうな顔をしたナルトだったが、
一週間位経った頃には舌と舌が絡む大人のキスを強請られる事になって、
最近になってはその大人のキスでも時々不満そうな顔をしているナルトに
サスケは気付かないふりをしている。
キスしてる間、ベタベタと余計に体に触ってくるその下心を知らない訳ではないが、
そこまで約束した覚えはない。

「…キスの効果持続時間が短くなってきたとでも?」

「いや、それは違うって。…参ったな。オレ、最近どうやら酷使され過ぎて
いつもより充電が早く切れたようなんだってばよ。だから、これからは、
できればもっと効果が強力なものが欲しいな〜と思って……え、サスケ?!」

「…酷使?今『酷使』って言ったのはどの口だ?」

サクラのおかげでギリギリの所で繋がっていたサスケの堪忍袋の緒が
ついにブチッと切れた。真っ赤に染まった綺麗な華のような瞳で、
サスケは凄まじい視線でナルトを睨み付けた。

「…さ、サスケさん?写輪眼は駄目だって!それも万華鏡かよ!」

「…サスケ君、私が許可するわよ。やりなさい。」

今までバカップル二人のやり取りを黙って見守っていたサクラが馬鹿馬鹿しくて
もう耐えられないと言わんばかりの呆れた口調で冷たく言い放った。

…その日、火影執務室から不審な黒い炎が爆発して6代目火影の自慢の金髪が
真っ黒なアフロヘアになる悲惨な事件が発生した。
未だにその犯人は捕まっていない。
第一、被害者である火影が何も言わないのである。
その事件現場にいた黒髪の補佐とピンク色の髪の補佐も自分達は何も知らないと
シラを切って何も言わない。
結局、事件は迷宮入りとなり、永久に解決される事はなかった。





end




『Everyday I Miss You』のAsurabi様に頂いたお話です!!う、嬉しすぎる〜〜〜!
なんと、このステキなお話は私の漫画の続きを書いて下さったものなのです。
恐れ多いです、ほんと・・・!でも、とっても嬉しいです!
私のヘボ漫画は→
Asurabi様、本当にありがとうございましたーーー!!